私を愛して、私のもとを去らないで(2)

今回はこの本の訳者の「訳者あとがき」をお届けします。

訳者あとがき

 

 認知行動療法スキーマ療法、マインドフルネスを活用することによって、見捨てられ不安に打ち克ち、愛のある豊かな人生を獲得することが本書のテーマである。

 見捨てられ不安は、発育過程が原因で形成されると言われている。その後の成長する過程でも、あるいは成長してからも、折にふれて、これがふと顔を出し、生活や人間関係の邪魔をする。さらに見捨てられ不安は、愛を差し出すはずの相手からの虐待やネグレクトが関係すると言われている。しかし、その意味するところは、言葉で言うほど易しくない。

 見捨てられ不安は、現在、ADHD(注意欠陥多動症)の分野で主たる原因と言われている。しかし、実際はこれにとどまらず、発達障害全般と精神的疾患の分野でも問題となっている。さらに「良い子」の問題、共依存を含む「自己喪失」の問題、強迫神経障害、精神身体症、そして薬物・アルコール中毒など、多くの問題で見捨てられ不安が共通した原因だとする説がある。

 認知行動療法とマインドフルネスは、基本的には原因論ではなく、治療論であるかもしれない。しかし、「私たちが困難を乗り越えて行動するためには、自分の苦しみのもとを理解する必要がある」と著者が言っているように、著者は見捨てられ不安が、さまざまな心理的な問題の中心的課題なのだと位置づけている。著者は、この原因論に近いテーマに具体的に挑戦している。 

 本書において、著者は認知行動療法スキーマ療法を駆使し、その人の新しい価値の発見を通じて、これに打ち克つ案内をする。著者のそれぞれの記述には、彼女の深い英知と優しさが感じられ、しみじみと感動を誘う名著となっている。

 個人的なことになるが、私はアルノ・グリューンの2著を翻訳している。彼の本は私翻訳者のバイブルである。彼は非人間的な戦争を通して、私たちが共感し合うことの大切さを説いている。ここに、なぜか本書のミシェル・スキーンと通じるものを感じて、この本を訳すことにしたのである。

 

 なお、太陽書房の佐藤拓朗さんに編集のお世話になった。本当にありがとうございました。

ミシェル・スキーン

訳者 森 直作